親のお金が、どこに、どういう形であるか。知っていますか?
そして、もしものときに親がどうしてほしいか。その希望を、聞いたことがありますか?
私の答えは、どちらも「知らない」です。親はまだ元気です。でも、親に何かあったときに私が最初に困るのは、まさにこの2つを知らないことだと気づきました。
終活というと、聞く項目の長いリストが出てきます。あれもこれも聞かなければ、と思うと、結局いつまでも切り出せません。だから私は、聞くことを最低限の2種類に絞ることにしました。「お金の場所」と「親の希望」。それだけです。
金額は聞きません。暗証番号も聞きません。聞くのは「場所」と「希望」だけ。それなら、元気なうちの親にも聞けるはずだと思っています。
聞くのは2種類だけ
- お金の「場所」 ― どの金融機関に口座があるか、保険や年金の書類がどこにあるか。金額ではなく場所です
- 親の「希望」 ― 医療・介護のことと、葬儀・お墓の大枠。細部ではなく大枠です
この2つが分かっているだけで、もしものときの動き出しがまるで違います。理由を順に書きます。
なぜ「お金の場所」なのか
口座は名義人が亡くなると原則として止まります。取引先の手がかりがない口座は、家族が把握するまでに時間と手間がかかります。
名義人が亡くなると、銀行口座は原則として相続の手続きが済むまで引き出せなくなります。遺産分割の前でも、一定額までなら単独で払い戻しを受けられる制度はありますが(預金残高×3分の1×自分の法定相続分、1つの金融機関につき150万円まで。民法の仮払い制度)、それも「口座があること」を知っていての話です。
取引先の手がかりがない口座は、家族が把握するまでに時間や手間がかかることがあります。最終異動日から10年以上、入出金などの取引がない一定の預金等は「休眠預金等」として預金保険機構へ移管され、家族が気づかないまま眠ってしまうこともあります(移管された後でも、金融機関で引き出すことはできます)。
だから聞くのは金額ではなく、場所です。
- 取引のある金融機関の名前
- 通帳・保険証券・年金関係の書類が置いてある場所
- 加入している保険の会社名
私にとっての最初の一歩は、この範囲です。残高や暗証番号まで聞く必要はありませんし、聞かない方が親も話しやすいはずです。
なぜ「希望」なのか
親の希望は、体調や状況によっては、後から聞くのが難しくなることがあります。
もう一つが、親自身の希望です。
厚生労働省は「人生会議」という考え方を広げています。もしものときに自分が望む医療やケアについて、前もって考え、家族と繰り返し話し合って共有しておく取り組みのことです。大げさな話ではなく、「話しておく」こと自体に意味がある、という考え方です。
最低限、聞いておきたいのはこのあたりです。
- かかりつけの病院と、飲んでいる薬
- 介護が必要になったら、自宅で過ごしたいか、施設も考えるか
- 葬儀とお墓について、大枠の希望(呼ぶ範囲、宗教・宗派、お墓の場所)
なお、希望を聞いてメモしても、実際の医療や介護の対応は、その時点の本人の状態や、専門職との相談を踏まえて決めることになります。
体調や状況によっては、希望を聞いたり話し合ったりすることが難しくなる場合があります。負担の少ない時期に、本人のペースを尊重して話しておきたい。ここが「場所」と並んで、急ぐ理由です。
ついでに「名前だけ」聞いておくもの:デジタルの契約
デジタル契約は「サービスの名前」さえ分かれば、家族でも解約の相談ができます。
もう一つだけ、名前だけ聞いておきたいものがあります。ネット銀行やサブスクリプションなどの、デジタルの契約です。
サブスクは、解約しない限り請求が続きます。国民生活センターも「デジタル終活」として注意を促しています。契約先が分かれば、家族として必要な手続きを事業者へ相談する入口にはなります。ただし、IDやパスワード、相続関係を示す書類が必要になる場合があり、解約の可否や手順は事業者ごとに異なります。逆に言えば、契約先の名前すら分からないと、家族は手が出せません。
だから、ここも聞くのは「サービスの名前」だけです。パスワードは聞きませんし、メモにも書きません。
切り出し方:私が考えている進め方
「終活」と言わず、1回に1つだけ聞く、が私の計画です。
正直に言うと、私はまだ親に切り出せていません。だからこれは経験談ではなく、「こう進めよう」という私の計画です。
- 「終活」という言葉は使わない。「入院でもしたら困るから、書類の場所だけ教えて」という言い方にする
- 1回に1つだけ、短く。全部を一度に聞こうとしない。帰省したときの何気ない会話の中で1つ
- 道具を使う。自治体が無料で配っているエンディングノート(覚え書きのノートで、法的な効力はありません)があります。名古屋市でも区ごとに配布されています。これを「一緒に見てみよう」と渡すと、話の入口にしやすいと思っています
聞く側が構えると、聞かれる側も構えます。最低限に絞るのは、親のためというより、切り出す自分の側のハードルを下げるためでもあります。
聞いたら、その日のうちにメモする
聞いたら、その日のうちにメモします。メモに書くのも「場所」と「希望」だけです。
聞いた内容は、その日のうちにメモしておきます。
- 書く場所は1つに決める(ノートでも、スマホのメモでも)
- きょうだいがいれば、聞いた内容は共有する(後で「聞いてない」の食い違いを防ぐため)
- メモにも、金額や暗証番号・パスワードは書かない。書くのは「場所」と「希望」だけ。この記事の線引きのままです
まとめ:最低限が済んだら、それ以上は急がない
最低限は「場所と希望」の2つです。それ以上は急ぎません。
親に聞いておくことは、全部リストを埋めることではありません。お金の場所と、親の希望。この2種類が分かれば、私にとっての最低限は済んだと考えています。必要な確認事項は家庭の状況によって異なるので、相続・介護・医療の具体的な手続きは、必要に応じて金融機関・自治体・専門職に確認してください。
残りの細かいことは、その後で少しずつで構いません。備えの全体像は「50代からの3つの備え|働き方・親の介護・終活を、順番に整える全体地図」にまとめています。そして、介護が実際に始まったときの動き方は、柱2の記事「親の介護が始まったら、最初にやること・連絡する順番」で整理しました(公開後にリンク)。
親が元気なうちに聞く。それが、この備えがいちばん効くタイミングです。
出典
- 法務省・民法第909条の2(遺産分割前の預金払戻し制度:残高×1/3×法定相続分、1金融機関150万円まで)
- 預金保険機構・金融庁(休眠預金等活用法:最終異動日から10年で休眠預金等となり移管、移管後も引き出し可能)https://www.fsa.go.jp/policy/kyuminyokin/kyuminyokin.html
- 厚生労働省「人生会議(ACP)」ポータル https://www.mhlw.go.jp/acp-jinseikaigi/
- 国民生活センター「デジタル終活」に関する注意喚起(2024年11月20日)https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20241120_1.html
- 横浜市・名古屋市ほか自治体のエンディングノート案内(法的効力のない覚書であること、無料配布の実例)
- 確認日:2026年11月4日


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